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1.「観光産業奨励の目的確認」

政府(中央・地方)の目的は「納税者(居住者)の生活水準の維持または向上」であり、それは一人当たり年間所得という指標で検証可能なものである。ではそれをどう実現していくかと言うと、地域内に域外から外貨を獲得することが有益な手段である。観光産業の目的は、民間企業であれば、当期利益確保による株主価値最大化であり、政府の目的は「納税者(居住者)の生活水準の維持または向上」であり、ここがブレては議論が集約しない。「観光客の笑顔の為に」「満足して頂くために」「地元住民が郷土に誇りを持つため」という類の思い付きは、すべて目的達成のための手段である事だという最大公約数に気づけば、観光産業奨励目的との違いが明確にわかるはずである。

2.「観光立国政策、第一ステージの大成功」

20世紀後半に製造業が輸出産業として国富を増大させ日本の国民経済をGDP世界第二位の地位に押し上げた輝かしい経緯があるが、伝統的な輸出産業の相対的な国際競争力は21世紀に入り減少傾向にある。その環境を俯瞰し、日本は2003年という早い時期に観光立国を宣言したが、その趣旨は、インバウンド訪問客来日を促して日本国内で観光消費をさせることで、今後の日本経済を支える成長輸出産業として育成しようというビジョンであった。
日本国内の総観光消費額のうち日本人の消費が95%超、インバウンド客消費は5%弱という時代が40年ほど継続した後でのそのビジョンは多くの観光産業従事者には夢物語に見えたはずである。2008年に観光庁が発足し、本格的に観光立国を進めようという機運は高まったが、2011年に東日本大震災が発生し、インバウンド客は一時的な減少を余儀なくされた。日本政府の観光立国政策はその後矢継ぎ早にその後の躍進を導く種を蒔いた。ビザ発給条件緩和、国内多言語化対応、Wifi導入促進、国際会議誘致奨励、そして観光産業の自主財源となる出国税導入による更なるインバウンド客への便宜向上、これらの政策は大きく花開き、訪日客数は当初の長期目標であった3千万人を超過し、4千万人は視野に入ってきた。

3.「観光立国政策、第二ステージ成功継続のための課題」

大成功の最中にそれを継続させるために課題を議論する事が重要である。「勝って兜の緒を締めよ」である。冒頭に「観光産業奨励の目的確認」をした理由はそこにある。観光客数を増加させることは、「納税者(居住者)の生活水準の維持または向上」のための手段に過ぎず、その目的に直結する指標は、インバウンド客年間観光消費額である。2020年度の政府目標はインバウンド客年間総数4千万人、消費総額8兆円であるが、2018年度は31百万人、4.5兆円であったので、より重要な指標である消費総額目標達成の方は、年間総数達成より困難であろう。いかに消費総額を増やすかという課題が確認出来たが、この課題も論理だって各種要因を分解していく必要がある。インバウンド客一人当たりで考えると
一日当たり消費総額(A) x 滞在日数(B) = 滞在時消費総額(C)である。
この(C)を増やすにはどうすべきかという議論の場合は、(A)を増やすか(B)を増やすかで実現出来るが、(A)はより高品質な物品サービス消費性向が高く、一日あたり消費総額が高いセグメント(顧客層)である、富裕層やMICE系訪問客を狙うことであり、(B)は一般に自宅からの移動距離と滞在日数が正比例の関係にあるので、遠距離客、つまり欧州、米州(北・中・南米)、中東・アフリカからの来日客を狙うという論理となる。豪州オセアニア地域も文化的には欧州扱いで非漢字文化圏の招聘セグメント対象となろう。

4.「地方創生と観光立国の関連」

次の課題は、日本の国内問題ではあるが、それをインバウンド客獲得で解決・軽減出来ないかという政策課題がある。それは少子化高齢化がより激しく直撃する地方・農村や山間地の経済を活性化するために、インバウンド客を戦略的に回遊させて魅力ある体験をしてもらうことで、それら地域で観光消費をしてもらうことである。但し、人工的に集客能力に優れた施設に新規設備投資するという、東京デイズニーランドや大阪のユニバーサルスタジオのようなケースは、おそらくもうIR(実際のカジノ床面積は3%で、残り97%はホテル客室、宴会場、国際会議・展示場やエンターテインメント施設であるため、3%の内容でカジノと呼ぶのは誤り)が日本、各地方自治体にとっての最後の機会であり、その他の借入余力の無い地方自治体では、新規設備投資無しに、インバウンド客誘致を図ることが必須となる。
つまり観光立国第二ステージで、政府の別の政策目標である地方創生実現を図るには、滞在日数の長いセグメントに各地方の観光資源を紹介して満足してもらうことで、結果として(C)を増加させる事が必須となる。ではそれをどう実現するか? まず、長期滞在セグメントは、長距離旅行客、つまり東アジア漢字文化圏外の欧米客が中心となる。 これは、現在3/4を占める東アジア客以外の1/4のセグメントを狙い、拡大していくという戦術転換である。次に既存の観光資源に何があるかを国内全体で棚卸する作業は、実は「日本遺産」で既に洗い出されている。後はそれら卓越した観光資源以外にも地方に既に豊富に存在する潜在的観光資源としては、広い意味での文化歴史施設、つまり社寺仏閣や祭り、歴史であり、それを如何にインバウンド客に理解してもらえるように欧米人の感性で理解しやすいように外国語(基本英語)で発信するかがポイントである。漢字文化圏ではなく、仏教や儒教の知識共通要素が無い人達なので、その分ストーリー発信時に留意する必要がある。

5.「観光立国第二ステージと文化立国・文化観光の関連」

観光立国政策をより高次元で地方創生政策にも恩恵を被るように展開するには、(1)遠距離インバウンド客に対して、地方の社寺仏閣・歴史文化を英語ベース、その他欧州言語(西、仏、独、伊露、葡等)で各国人の感性を考慮したストーリー発信し(2)来訪者がストーリーを確認・経験出来るような文化・観光資源を整備し(3)来訪者の満足や不満を体系的に拾い上げて、当該地方の文化観光資源を改善する運営体制構築し(4)観光・文化統計の観点でインバウンド客の各地方周遊時データを含む来日時消費動向の十分なサンプルを確保し、各地方でのインバウンド客経済活動の、消費額(=外貨獲得効果)や費用対効果を年次、出来れば月次で把握できるような情報収集体制を整備(5)上記の全てを納税者や居住者の税負担無しに持続的に実行出来る地方ベースの自主財源確保のために地方特別税制度(定率制の宿泊税等)導入を促進、する必要がある。
この方向に地方自治体が観光立国政策を実施していくと、文化資源(社寺仏閣・歴史遺産・文化体験)に魅了されて地方を回遊し観光文化消費を各地にもたらすという第二ステージの理想的な形が実現する。但し、消費額がどの産業セクターに落ちたかを計測すると、恐らく宿泊・飲食、輸送機関等、観光産業への消費額が多くなり、文化産業への消費額は相対的には少なめになるだろうが、文化体験が来訪の主要因である点、第二ステージの地方創生目的の地方回遊時には観光が文化と協力していく必要性が高まる点、留意したい。

6.「観光立国第二ステージにおけるDMO、MICE、英語と経営能力について」

上記4で述べた観光立国第二ステージを実現する際の各地のリーダーシップを取る主体はDMO(観光地奨励組織)である。持続可能な財源を確保し、英語での情報発信が主体のインバウンド獲得を目的にした本格的なDMOはこれまで日本に存在していないが、既に全国で150以上の組織が「日本版DMO」に立候補している。ところが、それら立候補者のどの程度が上記の業務内容でインバウンド客誘致のリーダシップを取る能力と気概があるのかは不明である。
正確には、内閣府後援の第一回DMOフォーラムで出席者と会話した範囲内では、既存観光協会や旅行会社退職者が「立候補すれば補助金を貰えると聞いたから手を挙げた」という正直な説明が過半数であり、インバウンド客から輸出産業として地域の外貨獲得の最先鋒となるという意識は無く、むしろ「自分が唯一経験のある日本人旅行者を誘致する過去の業務体験の延長線」で良いのだろうという意識でのプレゼンテーションがほぼ全数であった点、心配である。海外からのMICE誘致にしても、世界の共通言語は英語の世界で、いまだに日本語の教科書が無い(から日本語の教科書が欲しい)というレベルの議論しかなく、IR誘致や地方の文化資源をユニークベニューとして活用するという点でも、ミーテイングプランナーとDMOの戦略的な提携が出来ているのかは不明である。 DMO,MICE,すべての日本人による日本語の議論で、英語で業務処理する能力の必然性についてはほぼ無視され、日本語での非科学的な個人意見の表明に過ぎないレベルで、現在までの日本人相手の業務や発想の延長線で解決できるという断言では、第二ステージでは基本的な英語での業務処理能力不足でDMO、MICEだけでなく、日本各地の観光文化関連施設が英語発信能力不足で潜在力を発揮できないという状態に陥る。
では英語能力があればDMO,MICEや観光文化関連施設の経営は上手くいくのか? 観光文化系の人材で相対的に弱い分野が数的処理や財務・会計等の計数管理能力である。予算で幾らを特定のマーケテイングに投資した結果として、どの程度のインバウンド客消費正味増加額を確保できれば、投資は回収できたと判定出来るかを事前に損益分岐点計算が出来るのか?どの程度の消費額、宿泊施設利用額を確保すれば(地方特別税制度で財源を確保している場合)、自組織の人件費や施設賃貸料を含めて固定費をカバーできるのか、そのような基本的計数管理能力をもった人材が必要になる。この分野の人材不足は、今後余剰人員が発生するであろう金融機関に有益な人材がいるので、それを確保する手法がある。 
マーケテイング作業にしても、データ無しのコンセプトを話せる人材はいても、その中で、科学的なサンプル抽出理論やアンケート内容を英語で組めて、収集したデータを統計的に統計解析ソフトを利用して、科学的に有意な解析結果を解読出来て、それを実際のマーケテイングに落とせる能力・経験を持つ人材が各DMOで必要となる。人材管理から育成等、結局はきちんとした体系的な経営知識と経験のある人材育成が必須となる。そこに必要な知識は観光庁の調査で判明しているように「ホスピタリテイ経営」であり、財務諸表も読めない故に予算作業も出来ない、損益分岐点分析の訓練もしない、ましては日本語で勉強する「観光学」ではない。

7.地域の文化観光資源や体験をどう世界に発信するのか? 文化観光リサーチ社

現在、指導職階にいる人達がDMOやMICE,IR、文化遺産等について議論をする際に、「必要業務を問題なく施行出来る英語能力」について言及しないのは、自分たちが出来ないから意図的に避けているのかもしれないし、日本人同士で日本語で議論しているから正直気がついていないのかもしれないが、あまりに21世紀の観光立国を支える人材育成について無頓着である。
英語による日本文化・観光の発信については、ある程度日本のDMOや観光関連組織に未来の方向性を示すのが一つのリーダーシップであろうと思い、文化観光リサーチの発足及び運営にアドバイスを行っているのが、当組織参画の経緯である。幸い、当方の専門分野がUNWTOの観光統計から始まり、UNESCO統計局の文化統計、ICAOの民間航空統計と世界基準作成に専門家として関与しているので、UNESCO統計局の第一回文化サテライト勘定技術諮問委員会を日本(鎌倉・東京)に2018年に招致して以来、世界での存在感を一気に確立した文化庁とも協力してこの分野の日本の先進的な試行が世界に発信され共有される作業に関与させて頂いている。
具体的には日本語は出来ないがホスピタリテイ経営及びMICE、イベント経営専門米国大学学部生を有給インターンシップで指導し、彼らの感性で理解した社寺仏閣や文化歴史遺産を英語で発信する作業でそれなりの成果が出てきている。(例:日本の社寺仏閣文化慣習を非漢字圏外国人に伝えるSanpai_Japanのウエブサイト)
文化観光リサーチ社は日本文化・文化財の持つ魅力拡散への挑戦を行っており、関連業務として社寺仏閣を活用して宿泊施設としての収益を計上して、文化財保全や各種運営費用に充てるビジネスモデルから、自治体による観光文化資源の多言語化政策支援、ユニークベニューの紹介等、少子化高齢化時代での地方社寺仏閣・地域共同体から地方政府までインバウンド客に日本独自の経験をしてもらって結果として、自主財源を確保してもらうために外国人目線・感性での発信を行っている。
欧州観光地問題であるオーバーツーリズム類似の問題悪化を避けて、疲弊した地方に中央政府にも恩恵のある外貨獲得でのキャッシュフローを確保し、地元の若者に誇りを持てる地元就職先を確保し、社寺仏閣や自治体は外国人との交流で施設・地域保全資金も含めて十分な収益を確保出来るビジネスモデル構築を指導する、このような活動を先導する代表取締役、廣瀬タカユキ氏を全面的に支援する所存である。