【文化サテライト勘定】

GDPは1930年代に米国で発展した産業連関表をベースに第二次世界大戦後に国連や世銀、IMF等が世界標準として推奨、発展した国民勘定(System of National Accounts: SNA)を使って各国が計算しているものである。世界標準の枠組みであるため、当時の主要産業を反映して農業、鉱業、製造業と言う具合に組まれた主要産業構造の枠組みは既に世界中で採用され、この枠組みそのものを変えることは控えられて来た。大戦後70年を経過して、昔は存在しなかったか、規模が小さかったためにその他の扱いだったような産業活動が発展を遂げるに連れ、各国の国家統計局は、調査対象となる産業活動が既存の国民勘定ベースの経済活動の中でどの産業活動内に隠れて居るのかを国民勘定の周りを周回して眺めながら、測定していくと言う作業が必要となった。

今更構造を変えることが出来ない地球の周りを周回して地球の中に隠れている物体を調査すると言うイメージ、つまり”衛星”であり、国民勘定SNAを地球に例えて、「サテライト(衛星)」と言う名称になった経緯がある。

 

このUNESCO統計局側での世界共通基準作成が遅れている点は、日本に見事な戦略的国益をもたらす可能性を示唆していた。CSAはTSAと同じ構図で、欧米豪加諸国が世界の議論をリードしてきたが、中南米がCSAの作成と議論で想像以上に進んでいたが、問題は中南米は英語で結果を発表してなかったために、欧米諸国のレーダーにほぼ映っていなかったため、世界議論が収れんしていない点である。

また、経済的発展成長率の高さが世界で一番高い率で推移すると世界中が合意しているアジア地域からのCSA世界標準作成への貢献がほぼ無かった点も、UNESCOは議論のバランスの点で危惧していた。

2018年に文化観光リサーチ社が政府各省庁・民間企業群の協力もまとめあげて日本での第一回CSA専門家委員会開催誘致に成功し、そこで今まで日本語でのみ作業していた文化庁がCSAについて正式報告を実施した事で、欧米主導のサテライト勘定世界標準策定作業を牽引してきた先進諸国の中に唯一のアジア諸国として参入し、文化庁が今後は世界を意識して世界に日本の文化の経済活動測定作業や発想を発信していくという構図が出来たことは中長期の日本の国益確保という点で、大きな意義がある。

【国家戦略である観光立国実現へのDMO(観光地奨励組織)と文化の役割】

7,300百万人の世界人口で2017年には1,300百万人が海外旅行(国境を超えた訪問)を行った。2030年にはこれが1,800百万人となる。昨年、日本には28百万人と言う記録的なインバウンドが来訪したが、これは全世界越境旅行者数の2.1%に過ぎない。

地方の文化資源活用を戦略的体系的に進めれば、2.1%の現状シェアを2030年に世界旅行者3%〜4%程度のシェアへの拡大は戦略的に取組めば取れる確率は高い。これは54〜72百万人、インバウンド年間消費額で言えば9~18兆円程度であろう。何故年間消費額のレンジが来訪総数レンジより広いかと言うと、東アジア諸国民依存度が高く大都会(東京、大阪、京都)中心の訪問地受け入れでは過剰観光問題発生やインフラ容量不足で消費額は伸び悩むが、長距離旅行者(欧州、中東、北米、中南米)客を増やし、地方の文化観光資源活用で47都道府県・市町村回遊モデルを戦略的に構築出来ればその程度は十分稼げる伸びしろが日本の各地方に存在するためである。既に日本中に90か所以上、運営余力のある空港が存在するのは、先見の明がある先人が観光立国実現を予言していたかのような貴重な輸出インフラである。

日本国内の地方創生の核は、大都市から地方へ如何にインバウンド客を周回してもらいそこで宿泊、飲食、ユニークな体験で感動してもらい、彼らにその素晴らしさをSNSで発信してもらう宣伝行為も行なって貰うことである。そこで費用対効果を考えると、既に存在する地方資源をインバウンド向け観光資源として活用することで初期投資を抑えることが最も効率的である。

地方には伝統と歴史を継承する生きた人々の生活があり、季節の伝統行事、生活習慣、民話に溢れている。また、地元の方が畏敬する文化の中心的存在として神社仏閣が日本中至る所に数百年、千年の歴史を継承し、インバウンド訪問客はそれを感じる事が出来る。

文化資源や歴史遺産でインバウンド客に来訪してもらい、地域の多くの中小施設が彼らの観光支出を拾っていく構図が出来る。もちろん、東アジア近隣諸国からのセグメントと、欧米等の遠距離訪問者セグメントでは平均滞在日数だけでなく、趣味嗜好や満足度発生や再来訪意図に有益な要因も異なってくるため、結局は、文化資源のマーケティングでもデステイネーションマーケティング(観光地奨励)というデータ解析による科学的なマーケティング手法が必要になる。博物館キュレーターがDMOのマーケティング担当部長と一緒に、地域を売っていくデータ主導の消費者分析をして、地域の皆で地方創生を少ない人員で最も効率的な分野に投資して実現するという科学的な経営の世界になる。それが日本中で実現出来れば、観光立国の国家目標値を上回る数値が実現出来るはずである。

その大目標に向かって、大きな第一歩をしるしたのが、今回の文化観光リサーチ社による文化サテライト勘定専門家会議の日本招致の成功であり、観光庁と文化庁が協力してインバウンド客を広く日本国内の各地方に周回されることで実現出来る。また、地方創生による観光立国実現に貢献出来る余地と伸びしろが大きい点の理解が広まるきっかけになろう。